「ずっと前から好きだった」
中学一年生のときの花火大会の帰り。親友のルナと行く予定だったのに、なぜか幼なじみのシュウもついてきた。「静かなところに行きたい」というルナの意見からルナの家に行くことになって、そこにシュウもついてきたときから、なんかおかしいなとは思ってはいたけど。告白されるなんて初めての経験で平然としていても頭の中はパニックだった。シュウとはケンカしつつも仲は良い。好きだけど、恋愛感情なんて持ったことないし、この関係を壊したくない。
「ごめん。何て言ったらいいかわかんない」
次に続く言葉を探していたら、玄関のドアが開き、下手な理由をつけて家の中にいたルナが出てきた。
「おれ、帰るわ」
シュウが帰るとき「私も」なんて言うわけにもいかず。どうしたらいいかわからない気持ちを抱え、ルナの家の玄関の前に座り込んでいた。何が起きたのか考えるだけでめいっぱいだった。
「ね、コーラでも飲む?」
顔を上げると小さなビンのコーラとグラスを持ったルナが笑顔で立っていた。炭酸飲料が苦手だった私はコーラを飲んだことがなく、
そもそもコーラと出会うきっかけすらなかった。
「え・・・うん」
ぷしゅっ
ガラスビンのふたから小さく水しぶきがあがり、快い音を響かせた。ガラスのグラスにつがれたコーラはしゅわしゅわと音を立てながら、夏の夜の香りをただよわせていた。じっと見ていると、泡がぷつぷつと浮いては消え、浮いては消え、とくり返していた。
「乾杯」
コツンとグラスをぶつけると透けた茶色のコーラの海がちゃぷりと揺れ、波を立てた。
ごくり
炭酸水が乾いたのどを潤し、ぱちぱちとはじけて少し痛かった。初めて飲んだはずなのに、どこかなつかしく感じた。口いっぱいに広がるコーラの味はなぜか切なくて、しんみりとしていて、安心できた。
「告白されて嬉しいけど好きじゃないからふらなくちゃいけない。今のままの関係でいたいし、何よりシュウを傷つけたくない」
「えっ」
あまりにドストライクで私の心境を口にしたルナを見たらなぜか視界がぼやけた。
「顔に書いてあるよ。それって贅沢な悩みだからね?」
「そんな・・・っていうかどうしよう!」
食べ物は感情とリンクしながら自分の中に溶け込み、自分をつくっていく。
あのときのコーラも私の中の複雑でモヤモヤとした感情とリンクして、今も私の中にあり、私を生かしている。
この先も、ずっと。